医学部卒業には何年かかり、臨床実習を経て一人前の医者になるにはどれだけの時間を要するのかについて時系列で詳しく解説。
日本で医師になるには、大学の医学部を卒業し医師免許を取得、さらに2年以上の臨床研修を受けることが義務付けられています。
何年もの年月をかけて医師に必要な知識や経験を積んでいく必要がありますが、医師として活躍するまでには具体的に何年かかるのでしょうか。
この記事では、6年制の医学部医学科は何年で卒業できるのかご説明するとともに、医学部の3大関門試験や卒業後の臨床研修を経て、医師として活躍するまでには何年かかるのか解説していきます。
医学部を志望する受験生、医師になるには何年必要か具体的な年数を知りたい方に役立つ内容となっていますので、ぜひ参考になさってください。
6年制の医学部医学科は現実的に何年で卒業できる?
大学の医学部医学科は6年生制のため、留年せずにストレートで進級できれば最短6年で卒業できます。
医学部で学ぶ学問は主に「基礎医学」と「臨床医学」であり、大学の1〜4年次で学んでいきます。
その後は共用試験の受験・合格を経て、5・6年次で大学病院や総合病院で臨床実習に参加します。
このように、医学部では医学に関する専門知識や臨床実習を通し、医師としての実践的な能力を培っていくカリキュラムが組まれています。
専門的な領域である分、誰もがストレートで卒業できるわけではなく、何年か留年を経験する人も出てきます。
他学部と比較して留年率が高い
4年制の他学部と比べると、医学部は留年率が高い傾向があります。
文部科学省の調査によると、平成26年度に医学部医学科に入った学生がストレートで卒業した割合は以下のようになりました。
大学種別 | 最低修業年限での卒業率 |
---|---|
国立大学 | 85.2% |
公立大学 | 87.5% |
私立大学 | 81.1% |
国公私立大学すべて | 83.9% |
つまり、国立大学では全体の約15%、公立大学では12.5%、私立大学では19%ほどの学生はストレートで卒業しておらず、何年か留年、もしくは退学していると考えられます。
医学部に留年が多い理由は、その年次でしか受けられない科目がいくつもあり、1科目単位を落とすだけでも留年してしまう可能性があるからです。
ただし、6年制の医学部だからといって何年も留年できるとは限りません。
大学によって在籍できる年数は異なるため、そもそも最長で何年在籍できるのかあらかじめ把握しておき、そのうえで卒業まであと何年かかるのか考える必要があります。
一般的には、同学年を何年も留年できず、3度は経験できないすなわち同じ学年では2回留年するとアウトとなっており、6年間を最大でも12年までしか延長できずそれ以上は放校扱いとなるようです。
進級判定の厳しさは大学によって違う
医学部の場合、進級判定の厳しさは大学によって違います。
授業や試験の難易度、評価基準(出席点と試験の点数をどう考慮するか)、何年生から何年生への進級が厳しいなどは大学によって異なるため、「医学部は進級が難しい」と一概にはいえません。
ただし、医学部では必修科目をひとつでも落とすと進級できない場合がほとんどであり、他の学部と比べ進級判定が厳しいのは間違いないでしょう。
何年も留年するケースも
では実際には、どれぐらいの医学部生が医者になるまでに何年ぐらい留年を経験するのでしょうか。
先程のデータでは全体の平均として16%が留年した実際をお見せしました。
同じデータを参照すると、ストレート卒業率が低いすなわち留年の可能性が比較的高い大学では、入学者全体の35%がドロップアウト。
このような数字となった大学は国公立私立全体で5校ほどありました。
実際、現役医学部生である筆者も「2個上の先輩が今は同学年」や「1個上の先輩が今は2個下の学年」といったケースが身近にあります。
どんな人が何年も留年しやすいか、多浪生が多いのかなどよく聞かれますが、あまり関係ないのが実情。
編入生や医学部再受験生、現役合格した医学部生も多浪生も、人によっては何年でも留年する印象です。
各大学、何年生が関門か、どのように立ち振る舞うべきかといった情報が必ず飛び交うため、医学部では何年生であっても情報弱者にならないようにするのが最も有効な策となります。
医学部の3大関門試験
大学の医学部に入学すると、医師になるまでに以下の3つの試験に合格しなければなりません。
- 共用試験(CBT/OSCE)
- 卒業試験
- 医師国家試験
医学部卒業までに何年かかるか、医師として活躍するまでに何年かかるかは、これらの試験の合否によって左右されます。
共用試験(CBT/OSCE)
共用試験とは、病院での臨床実習が始まる前に全国の医学生が受験する試験です。
何年生で試験を実施するかは大学によって異なりますが、多くは4年次の後半に実施されます。
共用試験には以下の2種類があります。
- CBT(Computer Based Testing)
- OSCE(Objective Structured Clinical Examination)
CBT(シービーティー)では医学・医療知識、OSCE(オスキー)では患者への医療面接や診察の技能が確認されます。
共用試験は医学生の知識や技能が一定水準以上であることを示すための試験であり、共用試験に合格できなかった医学生は臨床実習に参加することはできません。
これまでは共用試験の実施は各大学の独自の判断に委ねられていましたが、近年の医学教育改革により、数年以内には国家試験と同等の扱いになることが明らかになっています。
何年生で実施されるかも統一される見通しです。
医者になるためには、国家試験のみならず、この共用試験の合格も必須となるようです。
卒業試験
医学部の卒業試験は科目数が多く、試験期間も1〜3ヶ月ほどと長期間続きます。
卒業試験に落ちると追試、もしくは留年となり、合格するまで医師国家試験を受験することはできません。
医師国家試験の合格率は例年90%前後と高めなため、医師になるまで何年かかるかは卒業試験の合否が大きく影響しそうです。
医学部の卒業試験は他学部と比べても非常に難易度が高く、6年生になると臨床実習をこなしながら卒業試験に向けて猛勉強する必要があるでしょう。
卒業試験の実施期間は大学によって様々。
6年生の夏に1度大きな試験をして終わる大学もあれば、医師国家試験直前の12月1月に怒涛の試験機関が設けられ、そこで数十名の卒業留年が確定するといった大学もあります。
卒業試験のレベルが国家試験相当であれば問題ないのですが、中には専門医レベルの知識を要求する大学もあり、医者になるために何年かかるかに卒業試験が大きく影響することもあります。
医師国家試験
毎年2月に実施される医師国家試験では、「臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識及び技能」が問われます。
医師国家試験の合格率は高く、2020年2月に実施された第114回医師国家試験における国公私立大学(修業年限超過者を含む新卒者)の合格率は95.6%です。なお、受験生全体の合格率は92.1%でした。
なお、共用試験が国家試験と同等の扱いになるのと同時に、医師国家試験も医学教育改革の対象となっています。
具体的には、紙ベースの受験からCBT同様にPC上での受験に、そして実技試験としてpostCC OSCEが課せられるといった内容。
医者になるために必要な能力が、知識だけではなく、患者とのコミュニケーション力や応対力、診察や検査などの手技の正確さまで求められるようになっていきます。
医師として活躍するまでには何年かかる?
大学の医学部を卒業して国家試験に合格し、医師として活躍するまでには何年かかるのでしょうか。
医師国家試験に合格し医師免許を取得すると、医療行為が行えるようになります。
しかし、医師として活躍するには臨床経験が必要なため、最初の2年間は初期臨床研修が義務付けられています。
よって、医学部の卒業試験と医師国家試験をストレートで合格すれば、2年の初期臨床研修を含め「最短8年」で医師として活躍できるようになります。
ただし、任意ではあるものの後期臨床研修でより専門的な実績を積む医師がほとんどであり、何年もの年月をかけて一人前の医師となっているのです。
2年間の初期臨床研修
初期臨床研修では、2年間で基本的な診療能力を修得していきます。
研修先の病院は、医学部在学中に希望を出し「医師臨床研修マッチング」によって組み合わせが決められます。
診療に従事する医師は2年以上の臨床研修を受けることが法律によって義務化されており、医師免許取得後は研修医として必ず初期臨床研修を受けなければなりません。
したがって、医学部卒業後何年で「一人前の」医師になれるかと言うと、最低でも8年ということになります。
後期臨床研修(任意)
後期臨床研修とは、初期臨床研修で修得した医師としての臨床能力をもとに、さらに3〜5年をかけて医療技術の専門的な実績を積んでいくための研修です。
後期臨床研修に進むには、初期臨床研修を修了、もしくは修了見込みであることが条件となります。
後期臨床研修は、病院によってはいくつかの科をまわる研修プログラムもありますが、自分が進みたい専門科で研修を受けるのが一般的です。
また、2018年4月から導入された新専門医制度により、専門医を目指して研修する医師は従来の「後期研修医」から「専攻医」へと呼び方が変わっています。
つまり、現在では研修医は初期臨床研修医のみを示す言葉となっています。
専攻医の研修に何年かかるかは、自身の経験症例数など環境に左右されることが多く、結婚や育児などのライフイベントと重なって何年もかかるパターンもあります。
専門医を取得するには
新専門医制度では、19の基本領域専門医と、22のサブスペシャルティ領域専門医の2段階制に分かれているのが特徴。
まず、希望する領域学会に専攻医として申請・採用され、病院の研修プログラムを受けながら症例数や論文などの経験を満たし、筆記試験に合格することで、基本領域の専門医として認定を受けることが可能です。
そして、基本領域の専門医を取得後、さらに専門性あるサブスペシャルティ領域の専門医を取得することもできます。
以上のように、一人前の医師になるには、知見やスキル並びに専門性を何年もかけて磨いていくことになるというわけです。
なお、専門医は医師免許と違い一度国試に合格すれば永久に保持できるものではなく、原則5年ごとに更新する必要があります。
海外で医者になるには何年かかる?
最後に、海外で医師を目指す場合には何年かかるか見ていきましょう。
パンデミックにより直近では数が大きく減少したものの、最近何年かは海外の医学部を検討する受験生が増えてきています。
もちろん、日本の医学部を受験するよりもハードルが高く、受験だけで何年もかかりさらには制度の違いにより日本よりも何年も医者になるために時間がかかる場合もあります。
ただし、それ以上に大きな経験と学びが得られることは間違いありません。
アメリカ
留学先として一番人気・実績ともに豊富なのがアメリカで、医学部も世界ランキングトップはハーバード大学を筆頭に上位をアメリカが独占しています。
そんな世界最先端の国で医者を目指すことも、将来海外で活躍したい人にとっては魅力的かもしれません。
ただし、1つ言えることは日本で医者になるよりもアメリカのほうが難易度は高いと言えます。
まず、アメリカで医師免許を取得するにはメディカルスクールに通う必要がありますが、これは日本の大学院に相当します。
つまり、まず、4年制の大学を卒業する必要があり、しかも高度な成績はもちろん、ボランティア活動の実績も必要です。
海外の大学は日本と正反対で入学が容易で卒業が厳しいことで有名ですが、メディカルスクールも例外ではなく、膨大な学習量と厳しい進級試験が待っています。
しかもメディカルスクールは4年生であるため、大学で合計8年と日本よりも2年間長く在籍する必要があります。
また、日本の医学部のように3大関門といった概念が通用せず、毎年毎月大きな課題が課せられるよう。
そのため、何年もかけて卒業するケースも珍しくないようです。
そもそも海外では留年をマイナスに捉える文化がなく、勉強したいから何年でも医学部生を続けるといったパターンもあります。
卒業後は州によって制度は異なるものの、一般的にインターンや研修など何年か経験するため日本よりも何年か長い期間を経る必要があり、医師になるには約10年以上はかかると思っておいて良いでしょう。
オーストラリア
国民の医療費が無料なことで有名なオーストラリアは世界でも高度な医療を提供する国の1つとして有名です。
また、大学留学先としても人気が高く、医学部を目指す日本人も少なくはありません。
オーストラリアの医学部に入学するには「UEP」「GEP」の2つの方法が存在。
- UEP:高校卒業後に医学部へ入学した学生向けのカリキュラム(5年~6年)
- GEP:学士号を取得した学生向けのカリキュラム(4年~5年)
上記より、UEPのほうが医者になるまでの期間を短縮できますが、最近はGEPのみを採用する医学部が増えているため、今後オーストラリアの医学部へ入学を検討している人はGEPを前提に考えたほうが良いかもしれません。
しかも、日本の高校を卒業している人は、医学部だけでなく大学に入学するにはファウンデーションコースとよばれる大学進学準備期間に1年通う必要があります。
これはオーストラリアの大学は3年制であり、大学1年に相当する分野は高校で学んでいるからです。
なお、医学部に入学するためには高度な成績と英語力が必要であり、IELTSなら7.0以上が必要に。
多くの受験生がこの英語能力の習得に何年か有するのが特徴でもあります。
ただし、オーストラリアで日本の医学部卒業後に医師国家試験に合格する必要はなく、医学部卒業後に1年間の研修を行うことで医師として登録できます。
したがって、オーストラリアでは医学部を卒業して何年で医者になれるかと言うと、ファウンデーションコース+学士号+GEPで8年、追加で研修1年間で合計9年は医師になるまでにかかることになります。
ハンガリー
日本に事務局を開設し、日本語で留学までのサポートが受けられることから近年留学者数が伸びている東欧のハンガリー。
物価も日本に比べて安く、浪人を重ねて日本の医学部入試を挑戦するよりも難易度が下がることから、最近はハンガリーの医学部留学が外国で医者を目指す1つの方法として注目されています。
また、ハンガリーはEU加盟国であるため、ハンガリーで取得した医師免許はEUでも認定され、幅広い国で活躍することが可能です。
ハンガリーの医学部に入学するには、ハンガリー医科大学事務局が提供する医学部進学プログラムを受講するのが一般的な流れ。
予備コースと医学部本コースが用意され、予備コースは本コースに進学するための準備コースのような位置づけです。
医師になるまでに何年かかるかは生徒の勉強状況に関わってきますが、基本的に日本と同じ6年制です。
1年生、3年生、4年生は4週間ずつ病院研修を受け、6年制は1年間クラークシップを受けることになります。
なお、予備コースを受ける場合は、1年間医学部に入るための勉強を行うため、最低でもハンガリーで7年間勉強することになります。
まとめ
大学の医学部を卒業するまでに何年かかるかというと、医学部は6年制のため、留年することなく進級できれば最短6年で卒業できます。
しかし、医学部は必修科目の単位をひとつでも落とすと進級が難しく、他学部と比べると留年率は高めです。
6年制の医学部とはいえ何年も留年できるとは限らないため、大学に最長で何年在籍できるか、卒業までにあと何年かかるか把握しておく必要があります。
また、4・5年次の臨床実習は、共用試験(CBT/OSCE)に合格しなければ参加できません。
医学部卒業試験、医師国家試験とあわせ、医学部生の3大関門といえるでしょう。
医師免許取得後は、基本的な診療能力を積むために2年間の初期臨床研修が義務付けられています。
初期臨床研修が終わると3〜5年の後期臨床研修に進む医師がほとんどなため、一人前の医者になるには何年もかかるということです。
一般的に医学部入学から医師として活躍するまでに何年かかるかというと、目安として約10年は必要と考えておきましょう。
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